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COVID-19流行下で、ホームレス状態の人びとの苦境

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行と、それにともなう「自粛」は、ホームレス状態の人びとの生活を直撃しています。また、流行に対する政府、自治体の施策は、役に立つものがある一方で、野宿者を含む困窮者のあいだに分断をもたらしてもいます。


この記事では、私たちのじれん(渋谷・野宿者の生存と生活をかちとる自由連合)が活動する東京の渋谷地域を中心として、COVID-19流行下のホームレス状態の人々の状況を述べます。ただし、この記事を執筆する数日の間でさえ、状況はめまぐるしく変わっています。あくまで、4月18日の時点を切り取ったスナップショットだとご理解ください。


食べられない


ふだんでさえ満足に食べられるわけではない野宿の仲間は、COVID-19の流行下で、よりいっそう食べることに難渋しています。大きな要因は炊き出しの減少です。


東京の各地では、毎週、毎曜日、多くの団体が、野宿者向けの炊き出し活動を行っていました。路上でくらす多くの人びとにとって、炊き出しは腹を満たし、生命をつなぐよりどころです。ところが、COVID-19の流行が本格化しはじめた2月最終週以降、多くの炊き出しが活動を休止しました。特に渋谷地域では、代々木公園A地区(都道北側の大部分)が閉鎖された3月27日以降、付近で活動していた炊き出しの多くが休止中です。多くの人と接することが、感染するリスク、感染を広めるリスクと直結する現状で、炊き出しの中止は決して責めるべきことではありません。しかしながら、結果として多くの人が食べるのに苦労する事態となっています。


私たちのじれんは、毎週土曜日に渋谷の美竹公園で、ホームレス状態の人たちと支援者が一緒に食事を作って食べる、共同炊事という活動を行っています。3月以降も共同炊事は継続しており、これからも続けるつもりですが、活動のやりかたは変化を余儀なくされています。まずは、頻繁な手洗い、マスクと手袋の着用といった感染防止策。それに、これまでぶっかけご飯を台に並べて一斉に食べ始める方式であったところ、パック飯を随時持ち帰る方式に変更しました。毎週おこなっていた寄り合い(集会)も、人が密集するのを避けるために休止。仲間同士の大切な交流、情報交換の機会は、減退することになってしまいました。その一方で、他の炊き出しの休止を受けて、共同炊事に集まる人の数は増えています。ふだんは100-130人程度が食事を摂るところ、3月以降は毎週140-180人が集まる状況です。


生きるために不可欠な食べるということが、個々人では明らかに満足できない状況で、政府や自治体に対して食事を要求するのは当然のことです。のじれんと同様に美竹公園を拠点に活動している、野宿者を中心とした団体「ねる会議」は、渋谷区の生活福祉課に対して食事の提供を要求。数度の交渉を経て、4月13日(月)以降、希望者に生活福祉課窓口から非常食を提供することを引き出しました。



非常食の提供は大きな成果とはいえ、それだけでは生きるのに充分とはいえません。炊き出しの休止も長引きそうな状況で、食べることについての困難は、簡単には解決しそうにありません。


仕事がない


ホームレス状態の人たちの多くは、実際には何らかの形で仕事をしています。しかし、COVID-19の流行下で仕事の機会が失われ、収入減に苦しんでいる人が数多くいます。炊き出しが減っている現状で、現金収入が絶たれることは生命の危険に直結します。冷蔵庫やキッチン、手軽に使える水道を持たない野宿の人たちにとって、生命を維持するために必要な出費は、むしろ多いのです。


野宿者にとりわけ大きな影響を与えているのは、東京都による特別就労対策事業、通称ダンボール手帳の仕事出しが停止していることです。


特別就労対策事業とは、都立公園の清掃や都有地の草刈りなどの仕事を、都が発注元となって、請負事業者が山谷地域の職安に登録する労働者を日雇いする事業です。多くの野宿者がこの事業に登録し、月におよそ3回、1回あたり8000円程度の収入が得られていました。


東京都は2020年度、4月8日に予定されていたの仕事出し開始を行わず、少なくとも5月6日まで停止する、と発表しました。ダンボール手帳の仕事を現金収入のよりどころにしてきた野宿者たちにとって、これは生命にかかわる大打撃です。この事態に対して前述のねる会議は、なんらか休業の補償をせよ、と東京都への要求を続けています。事業が福祉的な性格を持ち、また現実に多くの人が生計のよりどころとしているからです。しかしながら東京都は、不明瞭な理由で補償措置を拒否しました。



ふだんから困窮をしている人びとを、最も困難な時期に切り捨てるようなやり方は、承服できるものではありません。


新たに住まいを失った人びと


4月11日、東京都はインターネットカフェに対して休業を要請、前後して多くのネットカフェが休業しました。それによって、都内に4000人とも言われる人びとが、寝泊まりする場所を失いました。


密閉された狭い空間を多くの人が利用するネットカフェは、利用者にとっても従業員にとっても、たしかに感染のリスクが高い場所です。しかし、現に多くの人がネットカフェに宿泊していた以上、行政にはその人たちが寝泊まりできる安全な住まいを確保する責任があります。


東京都は当初500人分、のちに2000人分のホテルの部屋を借り上げて、ネットカフェから追い出された人たちのために確保、またTOKYOチャレンジネットという窓口で、土日も相談を受け付ける態勢をつくりました。一応評価できる施策ではありますが、重大な問題もあります。ひとつは、生活保護受給につながる人とそうでない人を選別し、待遇に差を設けていること(下記記事を参照)。ふたつめは、「東京都内で直近6ヶ月以上継続して生活している」という制約を設けていること。みっつめは、そもそもネットカフェ利用者とそうでないホームレス状態の人びととの間で、選別をしていることです。



のじれんは4月11日(土)の共同炊事の前後、渋谷駅前や代々木公園周辺に出向いて、ネットカフェを追い出された人向けの情宣活動を実施。短時間の活動ながら、10人以上の方々に会い、相談を行いました。


感染のリスク


路上で生活する人たちにとって、COVID-19に感染する可能性がどの程度あるかということは、実際のところ分かりません。しかし仮に感染した場合、ふだんから医療へのアクセスが制約されているホームレス状態の人びとは、明らかに高いリスクにさらされることになります。


東京都は軽症者、無症状者が宿泊して療養する施設の借り上げをはじめました(新型コロナウイルス関連 宿泊施設募集(第195報))。当然これらの施設はホームレス状態の人たちにも利用できるべきものです。しかしながら、感染の検査が滞っている現状では、多くの野宿者が、希望したとしても検査にかかれないものと想定されます。そして、「自宅療養」に必要な、安心して寝られる寝床、温かい食べ物、容態が悪くなった際の救急への連絡手段などは、いずれも路上生活の中で確保が難しいものです。


ホームレス状態が大変なのであれば、生活保護を取って住まいを確保すれば良いじゃないか、という考えもあるかと思います。実際この数週間、のじれんでは生活保護取得の相談を受け付けており、受給開始にいたった人もいます。一方で、生活保護を受給した際に得られる住まいが劣悪なものであり、むしろ感染のリスクが高まるがゆえに、生活保護を受けたくない、という人もいるのです。


本来、生活保護制度は居宅保護が原則であって、アパートなど居宅での生活を居住先とできるべきものです。しかし、ホームレス状態の人が生活保護受給を開始するにあたっては、多くの自治体がこの原則を無視し、「無料低額宿泊所」などの施設を、数ヶ月~数年という長期にわたって居住先とさせています。これらの「施設」の少なくない数が、高額の寮費を徴収しながら(無料でも低額でもない)、入居者を狭い相部屋に居住させる劣悪な居住環境であり、感染のリスクをむしろ高めます。路上での生活の方が安心できる、という考えはもっともなことです。


私たちのじれんは、上述のような施設の利用を避けるよう、福祉事務所の窓口で当事者とともに常日頃要求していますが、COVID-19状況下において、東京都に対して、改めてこれら施設からの移行支援を要請しました。なお、路上にとどまるのが感染を避けるという理由でなかったとしても、あるいは確たる理由がなかったとしても、路上で生きることは正当な権利であり、私たちは断固それを支持します。



総括


ふだんから困難な状況で生活しているホームレス状態の人びとは、COVID-19の流行下で、さらなる苦境を経験しています。私たちの社会が、効率や経済性の名のもとに補償や支援の対象を選別して、困窮者を分断するようなことはあってはならない、と私たちは考えています。

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