2022年10月25日、渋谷区は区立美竹公園を強制封鎖しました。美竹公園は、私たち渋谷のじれんが毎週土曜日に共同炊事(炊き出し)を行っている場所であると同時に、数人の野宿者が小屋をかけている場所でもあります。渋谷区は長年にわたって野宿者を敵視する政策をとり、ひどりやり方で追い出すことを繰り返してきましたが、その中でも今回の追い出しは最悪のものです。
この声明で私たちは、美竹公園強制封鎖に抗議すると同時に、なぜ人びとがホームレス状態であり続けるのか、ホームレス状態の人にとって公共の場所やそこでの活動がなぜ重要なのか述べます。
抗議と要求
私たち渋谷のじれんは、渋谷区、東京都、ヒューリック株式会社、清水建設株式会社に対して以下を抗議し、また要求します。
2022年10月25日の美竹公園強制封鎖は、暴力的な拷問であり、生存権の侵害でした。これに抗議すると同時に、このような強制封鎖、追い出しを2度と行わないことを要求します。
共同炊事、越年活動は、野宿者、困窮者の生存と生活にとって必要な、公共的意義をもつ活動です。これら活動を妨害しないこと、継続できる状況の維持に協力することを要求します。
共同炊事、越年活動にかぎらず、野宿者、困窮者の生存と生活のためには、誰でもいつでも居ることができる公共的空間が必要不可欠です。公共的空間、とりわけ公園を、誰でもいつでも居ることができる場所、資本による排除の論理と無縁の場所として維持することを要求します。
福祉施策は、当事者の希望にもとづいて利用されるべきものです。福祉施策における差別的、また不当な扱いをやめること、追い出しのための道具として福祉施策を利用しないことを要求します。
美竹公園一帯の再開発計画
今回の美竹公園の強制封鎖は、隣接する都有地、区有地を巻き込んだ大規模再開発のために行われました。「渋谷1丁目地区共同開発事業」では、美竹公園、および隣接する都立児童会館跡地(都有地)、渋谷区役所分庁舎跡地(区有地)、合わせて約1万平米を、渋谷区・東京都がヒューリック・清水建設に70年間貸し出し、施設を建設・運営させる計画です。児童会館跡地、分庁舎跡地には14階建てのオフィスビルが建てられる予定。現在の美竹公園の部分は、地下を掘ってホールをつくり、土をかぶせた地上の部分が、あらたな「美竹公園」に指定される、ということになっています。
再開発が進めば、建設中に公園が使えなくなることはもちろんのこと、建設後も公園とはとてもいえない空間になってしまいます。建設予定のオフィスビルの容積率は、公園を含めた全敷地に対して、制限ギリギリの399.99%です。つまり美竹公園は数字上、敷地の中で建物が建っていない地面、というだけの存在になってしまうわけです。ヒューリック・清水建設からなる共同企業体「Link Park」の提案書も、それを裏打ちしています。その完成予想図では、美竹公園はビル前広場とされてしまっています。
公園を再開発し、民間施設の付属物とすることを、渋谷区はこれまでも繰り返し行ってきました。美竹公園にほど近い宮下公園は、再開発の結果としてショッピングモールの付属地のような状態にされています。このような「公園」では、資本による排除の論理が働きます。2020年8月には、野宿当事者を中心とする団体である「ねる会議」のメンバーが宮下公園を利用しようとしたところ、商業施設の警備員に入場を阻止される事件が起きました(※1)。宮下公園内に腰を下ろした野宿者が、公園の指定管理者の警備員に狙い撃ちされ、退去を要求されることも繰り返し起きています。野宿者、困窮者にとって、公共空間、公園は必要不可欠であるにもかかわらず、商業化された公園は、他にいられるところのない人たちを狙い撃ちで排除するのです。
※1 http://minnanokouenn.blogspot.com/2020/08/13.html
今回の美竹公園強制封鎖は、公有地を民間企業に下げ渡し、収益を挙げさせる再開発のために行われました。封鎖は失敗に終わりましたが、再開発計画が止まったわけではありません。美竹公園では、行政代執行による追い出しが、今まさに進行しています。
2022年10月25日の美竹公園強制封鎖
10月25日(火)の早朝6時半、渋谷区は100人程度の渋谷区職員、警備員を導入して美竹公園の封鎖を強行しました。封鎖は小屋をかけていた6名の野宿者に対して一切の予告なく、6時半の時点で公園内に寝ていた4名に当日声がけすることもなく行われました。さらに職員は、公園の出入り口を締め切るのと同時に、トイレと水道を使えなくしました。野宿の仲間の抗議を、渋谷区職員は無視してまったく応答せず、封鎖作業が終わった段階で「トイレが使いたければ公園を出てくれ。公園を出たら、もう入らせない」と言い放ちました。封鎖のようすは、当日公園で寝ていた野宿当事者のひとりが撮影しています。
4名のうち3名は、その後公園に現れた渋谷区生活福祉課職員に応じて公園外に出ました。うち2名は、ハウジングファースト等施設の案内に応じましたが、1名は断りました。断った1名はふたたび公園に戻ることもできず、寝場所から締め出されました。
また、公園内に小屋をかけていた6名の野宿者のうち2名は、封鎖が始まった時点で留守にしていました。帰ってきてはじめて公園が封鎖されたことを知った彼ら2名も、寝場所から締め出されたことになります。
美竹公園内に残った1名は、公園課の責任者が事態を説明すること、その際に信頼できる支援者を同席させること要求していましたが、渋谷区職員はこれを無視し続けました。
公園外に応援の人たちが集まり、口々に抗議の声を挙げ始めてからも、渋谷区は締め切った状態を変えませんでした。それどころか、フェンスにブルーシートをかぶせて、公園の中から外、外から中が見えないようにしたり、食べ物の差し入れを妨害するなど、非人道的な行為をし続けました。現地に課長を含む公園課の職員が現れ、美竹通り沿いの入り口の蛇腹をようやく開扉した際には、既に日付が変わっていました。
なお、美竹公園利用禁止の公示は、当日朝に長谷部区長名で出されていました。その目的について公園課長は、施設の解体工事に先立つ「準備工事」のためであると述べています。渋谷区は、「渋谷1丁目地区共同開発事業」にともなう工事について、解体工事も含めて2023年度に行われると説明していたのであって、「準備工事」については封鎖の翌日10月26日にはじめて言及されました。またこの時点で、「準備工事」の内容、日程はいずれも未定であるとの説明でした。
美竹公園強制封鎖は不当であり、野宿者の生存を危うくするものだ
10月25日の美竹公園強制封鎖は、以下に挙げる観点から不当なものであり、野宿者の生存を危うくする人権侵害でした。
強制封鎖は拷問である
今回の強制封鎖は、野宿者に対する拷問でした。当日公園内で寝ていた4人は、早朝に大勢の職員、警備員に取り囲まれ、恐怖におそわれました。また、トイレ、水道の使用を妨害され、人間としてもっとも基本的な生理的活動が阻害されました。渋谷区職員は、このような精神的、肉体的苦痛を与えることを手段として野宿者の公園からの退去を迫ったのであり、これは憲法36条が禁じる拷問に相当します。
強制封鎖は生存権の侵害である
また今回の強制封鎖は、事前に一切予告することなく、寝込みを襲うことで首尾よく追い出すことを目論んだものです。適正な手続きや補償的措置を講ずることなく、騙し討ちで寝場所を奪おうとしたものであり、憲法25条、国際人権規約(社会権規約)11条1項などの趣旨にてらして生存権の侵害に相当します。また、追い出しを正当化するものとして批判の多い、ホームレス自立支援法11条の規定にすら抵触します。
追い出しのための福祉は不当である
渋谷区は、公園に居住していた野宿の仲間に対して、「ハウジングファースト事業」の施設の利用を促してきたと主張しています。同事業は、原則3ヶ月の期限を区切ってアパート個室に入居させる事業であり、渋谷区は委託先団体を通じて常時8床を確保しています。同事業の運用は、区が追い出したい人を狙い撃ちして委託先団体に声がけを行わせ、テント等の放棄を誓約させた上で入居させる形で行われています。仮に野宿者自らが利用を希望して福祉事務所を訪れても、利用申請すらできません。まさに「追い出しのための福祉」そのものです。短い利用期間が過ぎたあとの生活への不安から、利用に至らないのはもっともなことです。
いずれにしても、美竹公園に引き続き居住している人たちは、ハウジングファーストを含めた福祉施策の利用を現時点で希望していません。渋谷区は、福祉施策の利用が本人の希望にもとづくべきであることを改めて認識し、必ずしも福祉施策によらない代替案を含めた話し合いに応じるべきです。
共同炊事、越年活動の妨害は不当である
前述のとおり美竹公園は、私たち渋谷のじれんが25年にわたって共同炊事を行っている場所でもあります。共同炊事活動の中では、片付けなどをともに行っています。生きるために必要な食事の場であることに加えて、交流や情報交換の場、医療や生活保護などの公的仕組みにアクセスする経由地でもあります。共同炊事の場所を突然に封鎖することは、野宿者、困窮者の生存と社会生活を危うくするものです。
また美竹公園は、役所がしまり、仕事がなくなる年末年始を生き延びるため、連日の共同炊事と野営を行う越年活動が展開される場所でもあります。毎年、もっとも寒さの厳しい真冬に住むところを失い、越年の場に辛うじてたどり着く人たちがいます。越年は、野宿者、困窮者が冬を生き抜くために必要欠くべからざる活動です。今回、日程すらはっきりしない「準備工事」のために美竹公園を封鎖したことは、年内に立ち入りができないようにすることで、美竹公園での越年を行わせない意図があったとしか考えられません。不当であり、非人道的な行いです。
なぜホームレス状態であり続けるのか
渋谷のじれんが活動をはじめた1998年ごろ、活動の主軸のひとつは毎週月曜日の生活保護集団申請でした。当時の福祉事務所は野宿者の生活保護申請を拒否していました。生活保護は居宅保護が原則であり、居宅を持たない野宿者は生活保護を受けることができない、というのがその理屈です。この不当なやり方に対して各地の団体、当事者が窓口闘争を繰り広げた結果、行政は野宿者の生活保護申請を受け付けるようになりました(※2)。
※2 現在でも千代田区のように、野宿者の生活保護申請を拒否する自治体が存在します。
現在でも渋谷のじれんは、共同炊事時間内に生活保護申請の相談、および申請の際には支援者の同行を続けています。これは、制度面、運用面の双方で、今でも野宿者に対する差別的、あるいは不当な、あるいは不充分な扱いが続いており、当事者単独での申請が困難な場合があるためです。
制度面の問題のひとつとしては、路上からの生活保護申請に際して敷金・礼金の費用が支給されないことがあげられます。既に受給している人が引っ越しする際には、敷金・礼金は転宅にともなう費用として住宅扶助の対象となります。しかし、路上からの生活保護申請の場合は、「転宅」ではないとして支給されません。このため路上から生活保護を申請する人は、敷金・礼金を要求しない少数の物件を探して話がつけられなければ、無料定額宿泊所、簡易宿泊施設(ドヤ)などを利用する以外にすべがありません。ハウジングファーストのアパートを利用しようとしても、前述の通り同事業は自らの希望による申請を受け付けない運用がなされています。これは明らかに居宅保護の原則に反する状況です。
運用面の問題としては、支援者が同行せず当事者が単独で福祉事務所窓口におもむいた際に、自立支援センターなど生活保護以外の制度にしつこく誘導されたり、高圧的な態度で、意に沿わない、あるいは劣悪な施設の利用を要求されたりすることが挙げられます。8人部屋に押し込められた、寝床にナンキンムシが出る、「サービス料」を払ったら一ヶ月に8000円しか手元に残らない、などの話は枚挙に暇がありません。支援者が同行したら福祉課職員の態度がコロッと変わる、というのもよく聞く話です。
野宿者の多数は過去に生活保護を利用した経験がありますが、上記のような扱いの結果として、その多くが生活保護の申請と利用に対してネガティブな感情を抱いています。もっともなことです。
もちろん、路上にとどまる理由は生活保護行政への悪感情のみに還元されるものではありません。現在の仕事や人間関係を維持したい、障がいや病気のために路上生活を余儀なくされている、定住生活に慣れることができない、など。どのような理由であっても、あるいは確たる理由がなかったとしても、野宿生活をすることは正当であって、いちいち問いただされる必要はありません。持ち家や借家に住む人が、その理由を問いただされないのと同じことです。
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